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うっちーの時々かめらまん

たまにしか写真を撮らない「時々かめらまん」。日本とブラジルで時々撮った写真をUPします。ご笑覧いただけると幸いです。

達人


お盆の時期は何かと故人を偲ぶことになる。私の父はもう二十年近く前に他界しているのだが、今日はその父から子供のころ聞いた写真にまつわる逸話をひとつ。今日は写真はありません・・(汗)。

1960年、父はインドに出張し、ホテルのロビーで報道写真家三木淳さんと知り合いになった。1960年といえば、まだ外貨持ち出し制限があって海外旅行が珍しかった時代のこと。インドで日本人同士が出会えば親しくなったのも無理もない。

三木淳といえば、日本人として初めてライフ社の専属カメラマンとなった報道写真の大家。最も有名な作品は葉巻をくわえた吉田茂首相のポートレートであろう。サンフランシスコ条約締結を間近にひかえた敗戦国日本の首相を何とか威厳のある立派な人物に撮りたいと思った三木淳は、写真嫌いの首相に日ごろ愛用の葉巻をくわえてもらい、仏頂面ではない堂々とした姿をカメラにおさめてライフ誌の表紙を飾ったのである。ちなみにそのときのカメラはローライ、ライフ誌の記事では「国を愛し国民を愛し家族を愛し、そして葉巻を愛するシゲル・ヨシダは・・・・」と紹介されたらしい。この写真は単なるポートレートではなく、日本という国が立派な国であることを世界中に認知してもらうのに大きな役割を果たしたのである。写真の達人とは、ここまでの作画意図を持って、それを実現できる人のことを言うのであろう。

さて1960年のインドに戻って・・、カメラ好きだった父は、写真談義に花が咲いて三木淳さんとすっかり親しくなったらしく、「明日、仏像を撮りに行きますが、よかったらごいっしょにいかが?」と誘われ、喜び勇んで同行したらしい。三木淳さんの横で持参のカメラでパチパチやっていると、「おや、珍しいカメラをお持ちですね。ちょっと見せていただけますか」といって父のカメラを手に取ったという。F1.2の大口径レンズがついて巻き上げトリガーのついたキヤノンのレンジファインダーカメラだったというから、おそらくキャノンVI Tあたりであろう。
「1枚撮ってもいいですか」
「ええ、どうぞ」
パチッ。
「えっ、露出とかピントとか合わせないんですか」
「いやぁ、職業病みたいなもんで、カメラを手にすると無意識のうちにその場の明るさに露出を合わせてしまって、撮ろうかな、と被写体を見るとそこまでの距離に自然とピントリングを廻してしまうんですよ」
「・・・(絶句)」
当時の写真の達人であれば、これぐらいの技術は持っていたのであろう。今では自動露出にオートフォーカスであるから、こうした技術は必須ではないのだろうが・・。

そして、帰国後、旅行で撮った写真のアルバムを見た人たちが異口同音に一枚の写真を指差して、「これすごい、この写真いいですね」と言ったという。それはもちろん、三木淳さんが父のカメラで撮ったその1枚の写真であったそうな。
「達人というのは、これくらい凡人と違うもんなんだよ」
と言った父の言葉は今でも忘れられない。残念ながらこの話を聞いた時点ですでにそのアルバムは紛失していて肝心の三木淳さん撮影の写真を見ていないのだが、以来、写真はもちろん、他の趣味でも、学業でも、そして仕事でも、「世の中にはとんでもなくレベルの高い人がいるものだ」ということを意識するようになった。これは時として自信喪失につながるが、自信過剰にならない戒めとしては有効である。趣味に熱中して凝りに凝っているように見えて、実は、自分なりに限界線を引いているようなところがあるのだが、それはこの戒めが生きているのかもしれない。いくら没頭しても上には上があるのだからほどほどにしておこう、というわけである。

だからデジタルに手を染めていない、というのは理由にならないか・・(爆)。


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テーマ:カメラ雑話(よもやま) - ジャンル:写真

  1. 2006/08/22(火) 12:40:03|
  2. 撮り方の話
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:12
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コメント

どんなに自分が仮にすごい人間になっても、絶対に達人みたいなすごい人がどこかにいる、そう考えると、なんだか無理せずにのんびり行こうモードになります。デジタルの全自動なんかより、自然に手が動いてマニュアルカメラを自分の手のように操作して撮れたら、もっと今まで目に見えにくかったものが目に見えてきそうな気がします。ライカを使い込んでいきたいです。
  1. 2006/08/22(火) 16:28:10 |
  2. URL |
  3. farfarsideK #-
  4. [ 編集]

落ちは、やっぱりデジタルですか(笑)
  1. 2006/08/22(火) 20:26:24 |
  2. URL |
  3. piscina #KaFLR9qI
  4. [ 編集]

ふわ~、これはとっておきの逸話ですね。
感心しながら拝読しました。
  1. 2006/08/22(火) 20:51:29 |
  2. URL |
  3. pogetaro #-
  4. [ 編集]

たつじん

そんなスゴイ方がいらっしゃるんですね。
AF/AEを感覚のみで一瞬にしてできちゃうなんて…

こういうお話をお聞きすると、写真の奥深さを
改めて考えさせられてしまいます(^^;)
  1. 2006/08/22(火) 21:39:10 |
  2. URL |
  3. suzune #mQop/nM.
  4. [ 編集]

ならんならん

興味深い話を有難う御座います~

まあ、目標は高いに越した事はないですな
精進精進♪
  1. 2006/08/23(水) 14:13:22 |
  2. URL |
  3. GG-1 #-
  4. [ 編集]

のんびり行こう

farfarsideKさん
コメントありがとうございます。
「上には上があるものだ」というのはいいとして、
「だから、のんびり行こう」ということだったのか、
「だから、現状に満足するな、常にさらなる上を目指せ」
ということを言いたかったのか、今となっては確かめる
すべがありませんが、後者だったのかもなぁ、と思いながら
前者だったのだろうと楽な方の解釈を採用しています(笑)。
  1. 2006/08/24(木) 00:27:53 |
  2. URL |
  3. うっちー #-
  4. [ 編集]

オチ

piscinaさん
コメントありがとうございます。
別にオチなどなくてもよかったのですが、ついついデジタルの件が頭をよぎりまして・・(笑)。
  1. 2006/08/24(木) 00:30:11 |
  2. URL |
  3. うっちー #-
  4. [ 編集]

その後

pogetaroさん
コメントありがとうございます。
このインドの件ですっかり三木淳さんに心酔した父は、
帰りがけシンガポールに寄ってキヤノンを売り払い、
三木淳さんの薦めにしたがってライカM3とズミルックス50mmF1.4を購入、
結局このカメラが生涯の友となりました。
人との出会い、って大切にしたいですね。
  1. 2006/08/24(木) 00:34:47 |
  2. URL |
  3. うっちー #-
  4. [ 編集]

実はもうひとつ

suzuneさん
コメントありがとうございます。
実は露出とピントに加えてもうひとつ、狙ったフレーミングを瞬時に行う、
という能力がないと、一瞬のうちに写真を撮る、ということができません。
これはAE&AFが当たり前になった今でも必要なことのはずですが、
ズームレンズの普及とともに、カメラを構えてからズームリングを廻して、
気に入った構図になったら撮る、という撮り方になりがちなのが気になります。
ちなみに三木淳さんがのちにカメラ雑誌のインタビューで、
「ズームレンズはできるだけ使わないようにしている。
それは画質の問題ではなく、フレーミングが安易に
なるのがイヤだからである」
と答えていたのを読んだことがあります。
  1. 2006/08/24(木) 00:43:05 |
  2. URL |
  3. うっちー #-
  4. [ 編集]

高い目標

GG-1さん
コメントありがとうございます。
やっぱり、「常に高い目標を持って精進せよ」というのが、
本来の主旨だったんですかねぇ・・(汗)。
  1. 2006/08/24(木) 00:46:21 |
  2. URL |
  3. うっちー #-
  4. [ 編集]

三木淳先生・・・

今思えば入試の面接官で有りました
三木先生「君はどんな写真撮りたいの?」
私「ハイッ!報道写真を目指してます!成田闘争(当時成田空港争議の真っ最中でした)なんか撮ってみたいです(かなり興奮気味で)」
三木先生「そーか君は身体もデカイし丈夫そうだな(笑)頑張って報道に進んでくれたまえ」←18歳当時運動してたおかげでかなり頑丈そうに見られた模様です(^^ゞ みたいな会話で
見事合格いたしました←と言っても補欠なんですけどね(笑)
以来30年余り・・・三木先生の授業やゼミはいろいろあって受けらなかったのですが
面接のご恩は一生忘れませんです
30年ちょっと前の江古田の写真学科での入試のお話でした(合掌)
  1. 2008/10/22(水) 18:26:53 |
  2. URL |
  3. 元ヤシカ社員 #-
  4. [ 編集]

質問

元ヤシカ社員さん
コメントありがとうございます。
そうですか、面接官だったんですか。「君はどんな写真を撮りたいの?」
って質問、結構プロカメラマンの本質をついた質問ですね。
いくら有名になっても、常にご自分にも問い続けておられたのかも・・。
  1. 2008/10/22(水) 23:30:57 |
  2. URL |
  3. うっちー #oBF86JTA
  4. [ 編集]

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